好きなように作っていただければいいですから!」
広告・編集制作業に携わっていると、
たまにこういうクライアントに出くわすことがある。
最も気をつけるべきタイプだ。
だいたいこの手のクライアントは、
往々にして後でもめる。
「クリエイティブ」なんていったところで、
別にアーティスト(芸術家)になるわけではなく、
基本、社会に受け入れられる範囲のもので、
クライアントが望むものを作るのが仕事だ。
こちらから提案ももちろんするが、でも最終的には、
自分が作りたいものを作るのではなく、
客が作りたいものを作る。
それがクリエイターの仕事だ。
いくらクリエイターが「これがいい!」といったところで、
客が気に入らなければ「仕事」としては「失敗」だ。
そういう業界にいる中で、
「好きなようにやっていい」というのは、
非常にうれしい言葉なのだが、
これを額面通りに受け取るのは危険だ。
だいたいこの手のクライアントは、好きなように作ったら、
「なんか違う」「こんなんじゃない」
「ほんとはこうして欲しかった」などと文句を言う。
しまいには「手を抜いたんですか?」とか、
「こんなんじゃ金は払えませんね」とか、
言い出すとんでもないクライアントもごくまれにいる。
そう、家入一真氏のように。
(50万円のロゴはネットで騒がれたために、やむなく支払ったようだが)
なぜこんなことになるのか。
それはクライアントが制作側に、
きちんと事前に自分の要望を伝えていないからだ。
「好きなようにやっていい」というなら、
好きなようにやったものを無条件で受け入れるべきだが、
ほんとは実はいろいろと思い描いているイメージがあって、
「こんなテイストにしてほしかった」
「こういう色味は使ってほしくなかった」
「こういうタッチを求めてるんじゃない」
とか後から言い出す。
先に言えよ!って話だ。
ただ先に制作側に要望を伝えるためには、
クライアントが事前に自分でしっかり考えなくてはいけない。
でもそれが面倒くさい。
だからろくに指示もせず、
「有名なデザイナーだから大丈夫」
「写真集何冊も出しているカメラマンだから安心」
「制作実績は申し分ないクリエイターだから丸投げすればいい」
「これだけ制作費を払えばいいものができるだろう」
とこうなるわけだ。
そうやってろくに指示もせず、
クリエイターに丸投げした挙句、
出てきた制作物を見て文句を言うのだ。
「実績のあるクリエイターなのにこんなの?」
「こんなので50万円も払うの?」
という話になり、
「世間的に評価されているあのクリエイターは、
ギャラが高いだけで、たいした制作物は作れない」
といった筋違いの陰口を叩いたりする。
別に家入問題の話をしているわけではなく、
この業界ではこの手の話が実に多い。
だから私は「好きなようにやっていい」とか、
異常に事前の期待値が高く、
「かさこさんがやってくれるものなら、絶対に大丈夫ですよ!」
みたいにいうクライアントほど、
後々にトラブルになる可能性があるので、
気をつけるようにしている。
具体的には打ち合わせ時に、「おまかせ」と言われても、
客側のイメージしているものを引き出す努力をすることだ。
「おまかせといっても、こういうトーンはさすがにダメですよね?」とか、
「写真がいいとかイラストがいいとか、好みはありますか?」とか、
できるだけ何が好きそうで、何がイヤなのかを、
聞き出そうと試みる。
ただ残念ながらこういう指示なし横暴クライアントは、
打ち合わせ時に要望を聞き出そうと、質問をしても、
まったくらちがあかない場合が多い。
なぜなら自分でその段階で制作物について何も考えていないからだ。
「いや、いいですよ!おまかせで!」
「プロが作ったものなら何でもOKですよ!」
「何も制約はないです。好きなように書いてください!」
とか。
まずこういうクライアントは後になって文句を言う。
非常に難儀なタイプだ。
こうじゃない、ああじゃないと、
さんざん振り回されて、何案も作り、何度も作り直した挙句、
気に入らないからギャラをまけろとか言い出すのだ。
ほんとこの業界によくあるパターン。
多分、今回の家入ロゴ事件って、この典型例なんだと思う。
憧れの有名デザイナーに50万円も払えば、
間違いなく「いいもの」ができるだろうと丸投げし、
でも完成したものは自分のイメージと違うから、
がっかりして金払いたくないみたいな。
(細かなやりとりまでは見ていないから、
そうではないのかもしれず、
単に家入氏がダメ人間だっただけに過ぎないのかもしれないが)
でもこういう指示をしないで、
丸投げしておいて後から文句を言う、
ダメなクライアントやダメな担当者って、
業界の中で「あそこの会社とつきあわない方がいい」
「あの担当者の案件は引き受けない方がいい」みたいな話にもなるわけです。
するとどうなるか。
ダメなクライアントや担当者は、
制作を頼めるところがなく、
「もっと有名な人ならいいものを作ってくれるはずだ」
「違うクリエイターならいいものが作れるはずだ」
と新規の制作会社を探して飛び込み打診する。
制作会社にとっては営業もしないのに、
わりと大きな客先から、
新規飛び込みで問い合わせがあったら、
「なんと棚から牡丹餅なんだろう」と思うわけだが、
たいがいこの手のクライアントはダメなパターンが多い。
なぜ飛び込みなんかで発注をしてくるか。
今まで付き合ってきた制作会社やクリエイターが、
仕事を引き受けてくれないからだろう。
実私はこれまで3社、編集プロダクションに勤めていたが、
際にこの手の流れ案件で痛い目にあったことが3度かある。
今まで制作物を作っている会社があるはずなのに、
なぜか急に今回から御社にお願いしたいと飛び込みでくる。
わりとそこそこ名のあるクライアントで、
ギャラも決して悪くはない。
でもなぜ昨年制作した会社に頼まないんだろう?
といって聞いてもはっきりした理由を言わない。
だいたい初対面の打ち合わせ時は、
はじめてこれから仕事をするのだから、
こちらの実績を知らないはずなのに、
やたらべたぼめして「御社にまかせれば安心ですね!」
とかいったりする。
ところが実際に制作スタートして動き始めてから、
やっぱりああしたい、やっぱりこれはダメ、
とか後からいろいろ文句や要望をいう。
取材先や外注先にも迷惑を及ぼすことにもなる。
最後は横暴クライアントの決め台詞。
「こんなクオリティの低いものなのだから、ギャラをまけろ」と。
いやいや、こっちが迷惑料を上乗せしたいぐらいだから!
お金のことでもめにもめ、お互い嫌な気持ちになり、
「もう次回はうちで作りませんから」と断っても、
頼める制作会社がないからまた泣きついてくるみたいな。
そんなパターンだ。
クリエイティブで難しいのは正解がないこと。スペックではかれないこと。
どれがいいか悪いかなんて、
はっきりいって人の好みの問題だから、
いくら有名クリエイターが作ったところで、
それを気に食わないといわれてしまえばそれまでの話。
製造物のように、こうしたからスピードが速くなったとか、
部品のコストが安くなったとか、
数値化できたり、客観的評価ができればいいが、
クリエイティブなものってそういう基準はない。
あいまいな「いいわるい」論争になりがちだ。
だからトラブルに拍車がかかる。
発注者側に希望があるなら、
まず自分でどんなものが作りたいのか、
クリエイターに伝えられるようしっかり考えるべき。
もちろん客はプロではないから、
細かな表現方法とかまで指示する必要はなく、
「こういう方向性がいい」
「こういうのだけはやめてほしい」とか、
そのぐらいでいい。
それを聞けばクリエイター側の方で、
「それならこういう提案ができますけどどうですか?」
と進行していけば、お互いに完成系のイメージの方向性に、
ズレがなく、スムーズに進行していく。
ほとんどのお客さんはしっかりしているが、
1年に1度か2度、変なクライアントにあたってしまう。
この手のタイプは要注意。
クリエイター側も「好きなように!おまかせでいい!」という言葉を、
真に受けないよう注意したい。
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