社会保障費が増えるから増税ではなく予防医学の促進を~被災地に移住した理学療法士の試み
2013年 08月 07日
だから増税するって、あまりにも能がない。
病院漬け、薬漬け、介護漬けではなく、
病気にならない予防医学やリハビリに力を入れるべきではないか。
それを被災地で実践している人がいる。
理学療法士の橋本大吾さん(32歳)だ。
「増大する社会保障費問題を解決するモデルとなる病気予防事業を、
被災地で開業したい」と語っていたのは、今から1年前。2012年7月8日のことだ。
1年前に石巻駅前の喫茶店で話を聞いたが有言実行、
2013年5月に宮城県石巻市河北地区で、
リハビリ特化型の複合デイサービス施設「りぷらす」を開業した。
橋本さんはもともと被災地支援のボランティア活動をしている、
リハビリ職のネットワーク集団「face to face(FTF)」に参加していた。
FTFはその支援活動が認められ、石巻市から委託事業の請負が決定。
FTF石巻事務所を開設する際、橋本さんが石巻事務所常駐に名乗り出て、
2011年12月末から、石巻に移住している。
住民票を移したことからもわかるように、
単なる現実逃避でバックパッカー的、自分探し的スタンスで、
被災地に長期に入り浸ってしまう被災地ボラとは違う。
でもなぜわざわざ被災地で事業を?
しかも移住してまで。
しかし橋本さんには様々な思いがあっての決断だった。
「被災地はもともと高齢化が進んでいること。
リハビリ施設が少ない医療過疎地であること。
さらに震災によって仮設住宅暮らしを余儀なくされ、
家にこもりがちで運動をしなくなる人が増え、
結果、脳卒中などの生活習慣病が被災地で急増していること。
被災地でリハビリ施設を開業することは被災地の自立支援になる」
橋本さんの施設の最大の目的は、「介護保険からの卒業」をさせること。
「適切な指導による運動を継続的に行い、
施設に通わなくても自分で家で運動ができるようになれば、
歩けなくなる生活から脱却し、介護保険から卒業できる人が増えるはず」
なぜ介護保険から卒業できる人が少ないのか。
・運動不足により生活習慣病にかかる。
↓
・だんだん歩けなくなる。
↓
・危ないからといって家族が本人を歩かせなくなる。
↓
・動かないため、どんどん歩けなくなり、寝たきり状態が深刻化していく。
という負の連鎖があるからだ。
橋本さんの取材の前に、
石巻で甚大な被害のあった津波被災地を歩いていると、
高齢のおばあちゃんがとことこ歩いてきた。
声を掛けるとこんな話をしてくれた。
「私はもう90歳になるけど、一人で暮らしているから、
誰の世話になるわけにもいかない。
だから自分一人でも生活できるように、
毎日こうして散歩しているのよ。
家族に世話してもらっている同年代の人はだいたいダメ。
頼っちゃうから歩けなくなっちゃうのよ」
なんとも偶然だったが、取材前にこんな話を聞いたことで、
橋本さんがやろうとしていることの意味がよく理解できた。
しかし橋本さんが視野に入れているのは被災地だけの話ではない。
被災地はいわば今後の日本社会の縮図でもある。
被災地でこの事業が成功すれば、
被災地ではない場所でも同様のことができるのではないかとの思いもある。
「高齢化が進み、医療過疎地となっている場所は被災地以外にも多くある。
きちんとした予防医学の教育やリハビリ、運動指導がないため、
家に引きこもる高齢者が増え、いつしか自分で歩けなくなり、
介護保険を利用することになる。
歩けなくなると、介護をしている家族が、
転んでしまうと困るといって、何でもやってしまうので、
余計に動けなくなり、どんどん状態が悪化してしまう。
結果、増税しても追い付かないほど、社会保障費が増え続けてしまう。
この負の連鎖を断ち切るためには、高齢者に機能回復を目的とした、
リハビリや運動指導をする施設が必要と考え、開業した」
開業から2カ月。
介護保険を使い、施設に通う人は10数名。
仮設住宅の人が約3割。地元の人が約7割。
年齢層は40代~90代までと幅広い。
80代の利用者の一人は、お地蔵さんのように体が重く、
思うように動けなかったという。
しかし適切なリハビリ指導により、今ではだいぶよくなった。
あのまま家にいたら、今頃、寝たきりになってしたかもしれなかった。
「こういう人は日本中いっぱいいる。
きちんとしたリハビリをすれば、
多くの人が再び元気に社会に復帰できるはず」と橋本さんはいう。
介護保険適用者のみならず、
一般の方にも施設を活用してもらう。
要介護になる前の段階で、適切な運動指導をすることで、
健康な人を増やすためだ。
でもそんなことしたら商売にならないのではないか。
元気になる人が増えたら、施設利用者が少なくなってしまうのではないか。
「そんな心配はする必要はないと思います。
むしろ身体機能が回復する人が増えれば、
その評判を聞いて利用者も増えるはず。
それにどんどん施設を卒業したとしても、
今後も高齢者は増え続けるので、施設利用者が少なくなることはない」
また自立支援を目指す橋本さんが気を使っているのは、
利用者のトレーナー依存を防ぐこと。
「マンツーマンで指導すると、
どうしても利用者はトレーナーに依存してしまいがち。
施設に通っている間は元気でも、
家に帰ってトレーナー不在になると自分で運動ができない。
結局、施設に通い続けることになってしまう。
これでは自立支援にならないし、健康回復にならない。
ワンツーマン指導ではなく、複数の利用者を同時に見るようにしている。
すると利用者同士で会話が弾んだりして、
そこに新たなコミュニティが生まれ、
利用者同士で助け合ったりすることもできるようになる」
橋本さんがやろうとしていることは事業といえども、
超高齢社会のまさに自立支援だ。
物理的に自分で体を動かしたり、歩けるようになること。
施設利用をきっかけに、利用者同士が仲良くなり、
ちょっとした生きがいや楽しさの発見を手伝うこと。
「自助力と共助力を高めることで公助を減らすことができる」
と橋本さんはいう。
被災地支援にしても失業者支援にしても、
障がい者支援にしても途上国支援にしても、
お金をいっぱい使って、バラマキ支援をすれば、
自立しようと思っていた人でさえ依存心が芽生える結果になり、
公助の負担は増え続け、支援する側も支援する側も破たんしてしまう。
高齢者が増えます、社会保障費が増えます、
だから増税しますではなく、利用者負担を増やしますではなく、
病気にならないよう自分で気を付けられる人を増やしていくことが、
根本的な問題解決の第一歩ではないか。
今まで何でもかんでもバラマキ公助に頼りすぎた。
しかもその公助の中身が自立支援ではなく依存支援だった。
結果、際限のないツケだけがどんどん増え続け、
国民の負担が増え続け、みんながその重しで潰れそうになってしまっている。
増税ではなく、社会保障費を減らす工夫を。
単に予算が足りないから削減しちまえということではなく、
不健康な人を減らし、自分で健康管理ができる人を増やす、
仕組みなり教育なりが必要なのではないか。
橋本さんのような依存させない自立支援型サービスが、
どんどん増えていけばいい思う。
・りぷらす(石巻市相野谷字今泉前29-3)
http://rilink.is-mine.net/
・石巻市に移住した理学療法士。自立支援のための予防事業を視野に(2012年7月29日)
http://kasakoblog.exblog.jp/18499050/
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