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出版社残酷物語小説「半沢直子」~プレゼント不正疑惑の罠

「私がプレゼントを盗んだから解雇?!」
アイタ出版の雑誌編集部に勤める半沢直子は、
思いもよらぬ会社の解雇通知に言葉を失った。
なぜ、私が?
もしかして、消費者庁にプレゼント水増しを告発した腹いせなのか。
これまで会社に尽くしてきたのは何だのか。
よりいい雑誌を作ろうと、連日連夜、徹夜したあの苦労は一体……。
濡れ衣を着せられた怒りより、
この出版社の組織の腐り具合に愕然とし、涙がこぼれてきた。

半沢直子は就職氷河期の難関を乗り越え、
人気出版社に内定をゲットした。
狭き門でその年、採用された新人はわずか5人。
採用に応募した学生は1000人以上いた。
私は1000人の中のたった5人に選ばれたのだ。
人気出版社の就職に家族も友人もみな喜んでくれた。

半沢直子は学生の頃から、
この出版社の人気ファッション雑誌の愛読者だった。
いつかこの雑誌づくりに携わりたいと思ったのが、
この出版社を志望した理由だ。

入社してすぐに花形人気雑誌の編集部に配属されることはなく、
広告営業部に回され、雑誌の広告取りにまい進した。
その甲斐あって、入社4年目に、
念願の人気ファッション雑誌の編集部に異動となったのだ。

しかしそこで驚きのイカサマを知ってしまう。
雑誌の目玉ともいえるプレゼントコーナーで、
読者プレゼントの水増しが行われていたのだ。

半沢直子が編集部に異動してはじめて命じられた仕事が、
プレゼントコーナーの担当だ。
10名当選するはずのDVDプレーヤーに100人の応募があったが、
副編集長から手渡されたのは、DVDプレーヤー1台のみだった。

「副編集長、10名当選のはずですが・・・」
「何、言ってるんだ。この通り1台しかないから1名当選を選んでくれ」
「でも10名当選って雑誌に書いてあるじゃないですか」
「おまえ、広告営業部で3年勤めてたんだからわかるだろう。
最近、雑誌の広告が激減してるし、プレゼント提供してくれる企業も少なくなっている。
まともに10名なんかにDVDプレーヤーあげたら赤字になるに決まってるだろ!
1名だけ当選者を選ぶんだ。わかったな」

そ、そんな。それってイカサマではないか。
読者を騙す詐欺ではないか。
不服そうな顔をしている半沢直子に向かって、
副編集長はどなりつけた。

「上司の命令だ!いいからとっととやれ!
文句があるなら会社を辞めろ!」

ただ問題があった。
雑誌ではこうしたイカサマが行われていないのを証明するため、
毎号、当選者の氏名を載せていた。
あと9名、当選者の名前はどうするのだろうか?

「適当な名前を9人分でっちあげろ。
それがおまえがこの編集部に来て、
記念すべきはじめて執筆する原稿だ。
いいか、あやしまれないよう、普通の名前を書いておけ!」

そんなイカサマまでするのか・・・。
私があれほど愛読していた雑誌でこんな不正が行われているなんて。
はじめに担当した号では副編集長の言うことに従わざるを得なかったが、
こんな不正が許されていいわけがない。
ましてやもし世間にばれたらこの雑誌は終わりだ。
出版社だって潰れるかもしれない。

そこで半沢直子は副編集長に言っても無駄だと悟り、
編集長に直談判することにした。

「編集長!プレゼントコーナーでイカサマが行われています!
ちゃんと公正にやるべきです」
半沢直子の訴えに、編集長はさぞ驚いたようだ。

「なんと、そんなことが行われていたのか。
わかった。俺にまかせておけ。
ただし、このことは誰にも言うなよ。
外にもれたら大変な騒ぎになるからな」
そういって編集長は話を引き取った。

しかし次号の制作作業になると、
またしてもプレゼントコーナーのイカサマ指示が。
今度は50名当選!とうたいながら、プレゼントはたったの3人分しかない。
編集長は話を聞いてくれたのではなかったのか。
再び編集長に話を聞きにいくと、こう諭された。

「半沢君、君も知っての通り、広告が思うように入らなくて、
広告収入が激減している。
かといって読者が増えているかといえばそうでもない。むしろ減っている。
そんな事情もあって、副編集長がやむなく編み出した方法なんだ。
半沢君も社会人になってもう4年目なら、
大人の事情というのもわかるだろう。
私も不正なんかしたくないが、雑誌のため、会社のためを思って目をつぶってくれないか」

「編集長、そんなのおかしいです。
50名当選のところ3名なんて……。
企業から支給されるプレゼントが3名分しかないなら、
当選者も3名にすればいいじゃないか」

「半沢君、君は業界のことをわかっていないのか?
プレゼントの水増しなんてどこも行われているはずだ。
それにライバル雑誌を見てみろ。
向こうのプレゼントコーナーだって50名単位だ。
そこをうちが3名ですなんて正直に掲載してみろ。
売り上げはさらに厳しくなるぞ」

しかし半沢直子は編集長の話に納得しなかった。
「編集長、プレゼントコーナーの人数を比べて、
雑誌を買う読者なんてそんなにいないんじゃないですか?
そんなことより特集記事を充実させましょうよ。
正直、私が学生の頃に愛読していたより、特集記事がつまらないです。
昔はファッションに詳しい著名な専門家やライター使ったり、
有名なカメラマン使ったりして、
手間暇かけたおもしろい企画記事がいっぱいあったじゃないですか。

ライターやカメラマンにはこれまでのギャラの半分ぐらいしか払わないから、
腕のいい外注スタッフさんはみんないなくなってしまい。
今はファッションに詳しくなくても、安いギャラの人ばかり使ったり、
最近ではインターンと称して無給で学生に記事書かせたりするから、
記事の質が下がっているんです。

それに今は広告主の新製品を持ち上げるばかりの記事ばかり。
編集ページまで広告ページみたいになってしまっています。
売り上げが減っているのはプレゼントコーナーのせいじゃないと思います。
ちゃんと雑誌の記事の中身で勝負しましょう!」

そう言えば編集長ならわかってくれると思っていたが、
編集長は半沢直子に激怒した。

「おまえに雑誌の何がわかる?これはな、ビジネスなんだよ。
最終目標は企業の収益に貢献することだ。
いいか、もしプレゼントコーナーをバカ正直に、
人数分、毎号プレゼントしたらどうなると思う?
その費用だけで年間300万~400万円はとんでいくぞ。
もしプレゼントコーナーをバカ正直に実施するなら、
編集部の誰か一人を首切りしなければ数字があわない。

ただでさえ少人数でやっているのに、
これ以上、編集部員削られて雑誌が回ると思うのか!
それとも何かね、プレゼントコーナーをちゃんと実施する費用ねん出のためなら、
おまえがリストラされる覚悟はあるのか!」

そこまで言われて半沢直子は反論する術を失った。
しかし半沢直子はプレゼント人数を水増しするなんて、
社会にあるまじき犯罪行為だと思った。
しかもその犯罪行為に自ら加害者として加わっている。
こんなことはおかしい。
副編集長にいっても編集長にいってもダメだ。
ならば仕方がない。
消費者庁に訴えるしかないのではないかと考え、
自社のプレゼントコーナーの不正を、
消費者庁にメールして訴えた。
内部告発だ。

・・・・
一方、編集長と副編集長は半沢直子の不穏な動きに気づいたようだ。
半沢直子が休みの際、編集長と副編集長でメールの履歴を調べ、
消費者庁に訴えるメールを発見した。

「おい、副編集長。これはまずいぞ。
何か手を打たなければ、俺たちの地位が危ない」
「そうだ、編集長、いい考えがあります。
プレゼント不正疑惑はもう隠し通すことはできません。
そこで我々から消費者庁に訴えましょう!」
「副編、気でも狂ったのか。
我々が内部告発するなんて自らの首を絞めるようなもんじゃないか」
「何を言っているんです、編集長。
不正をすべて半沢直子の責任になすりつけましょう。
それで円満解決ですよ」
「ほほう~、半沢直子に不正をなすりつけるとは、それはいい案だ。
この件、おまえに一任するぞ。
もしうまくいったら次期編集長のポストはおまえのものだな」

こうして副編集長は内部告発した半沢直子に責任を押しつけるため、
様々な細工を施した。

まず半沢直子から消費者庁に送ったメールの削除。
自ら消費者庁に不正が行われていることを告発し、
はじめに告発のあった半沢直子のメールをもみけさせた。
もみけしは簡単にできる。
親会社が天下り官僚を受け入れているからだ。

そして半沢直子がプレゼントを盗んだように一芝居うった。
編集長が半沢直子を呼び出した。
「半沢君、君の言うことが正しいと思った。
そこで次号から当選人数を少なくしようと思う」
「さすがは編集長、ありがとうございます!」

次号のプレゼントが終わった後、編集長から、
半沢直子は呼び出された。

「半沢君、君の言う通り、プレゼントの当選人数を減らして、
普段は当選人数10名だったDVDプレイヤーを1名にしたのだが、
誰も応募がなかったのだよ」
「誰も応募がなかった???」
「やはり10名ぐらいなら当たるかもしれないと思って、
みんな応募してくるんだろうが、さすがに1名ともなると、
当たらないと思ってあきらめてしまった人が多かったのだろう」
「はあ」

「で、半沢君、誰も当選者がいないので、
このDVDプレイヤーもらってくれないか?」
「いや、応募者ないといえども景品ですからもらうわけには・・・」
「半沢君、応募者はゼロなんだよ。
君の言うように正直に当選人数を少なくしたのが原因だ。
かといって捨てるにはもったいない。
次号は新しいDVDプレイヤーになる予定だから次には使えない。
余っていても仕方がないから、君、悪いが引き取ってくれ。
会社に置いておくスペースもないしな」

半沢直子は編集長からお願いされたので、
仕方なく、プレゼントのDVDプレイヤーをもらうことにした。
でもこれが仕組まれた罠だった。
不正を告発したはずの半沢直子が、
実はプレゼントを盗んでいたから、
当選人数分、読者にプレゼントをしない不正が行われたと、
話を作られたのであった。

それから1カ月後のこと。
アイタ出版のプレゼント不正を消費者庁が発表した。
半沢直子は、自分が内部告発したことに、
やっと動いてくれたのかと思った。
しかし発表内容を見て驚いた。
「担当社員がプレゼントを窃取していたため、
読者に該当人数分のプレゼントを配らなかった不正が発覚」となっていたのだ。
そして半沢直子はその日、人事から呼び出しを受けた。
「プレゼント窃取により懲戒解雇にします」

なぜ?内部告発したはずの私が?!
半沢直子は会社の腐敗ぶりに涙が流れてきた。

そして誓った。
「編集長、副編集長に倍返しだ!」

・・・・・

2週間前のこと。
普段はプレゼントの景品を受け取るのは、
編集長、副編集長の役目なのだが、両方とも不在にしていたため、
宅急便で届けられた荷物を半沢直子が引き取ることになったのだが、
荷物をみて驚いた。

「DVDプレイヤー10台分在中」

なぜ10台?
広告の激減で1台しかもらえなかったのではなかったのか?
もしやと思い、半沢直子は、これまでのプレゼントの荷物の伝票をみた。
するとどうだろう。
毎回、10台分が納品されているのだ。
9台分はどこへ消えた?!
半沢直子は編集長、副編集長のパソコンを調べた。
すると驚くべきことがわかった。
彼らは景品の残り9台分をネットオークションで転売して、
私腹をこやしていたのだ。

半沢直子はこうした証拠をもとに社長に直談判し、
自らの解雇通知の取り消しならびに、
編集長、副編集長の解雇を要求した。

しかし社長はさらなる企業の不祥事が明らかになるとまずいと判断し、
半沢直子に解雇通知を取り消し、自主都合の退職に切り替える代わりに、
通常より3倍もの退職金を支払うことで勘弁してくれないかと持ちかけた。

半沢直子はもうバカではなかった。
腐ったこの企業の社長に訴えたところで、
言い分を聞いてくれないシナリオもあると考えていたので、
この社長とのやりとりを服にしのばせたスマホに音声データを録音。
この録音データとともに、編集長・副編集長の転売証拠をマスコミにリーク。
マスコミが「アイタ出版のプレゼント不正の真相」と題し、
担当社員が実はワナにはめられ、編集長・副編集長のみならず、
社長までもがもみけししようとした事実を大々的に報道した。

結果、社長は解任、編集長・副編集長は懲戒解雇。
半沢直子は雑誌を立て直すため、編集長へと昇格したのであった。

さらに後日談がある。
このアイタ出版はファッション雑誌のみならず、マンガで有名な出版社だった。
そこで自社の反省を踏まえて、
今回の不祥事をすべて実名でマンガ化し、出版することになったのだ。

マンガのタイトルは「半沢直子」。
後にドラマ化されるなど大ヒットとなり、
アイタ出版は不正を行わない立派な出版社として生まれ変わりましたとさ。
めでたし。めでたし。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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by kasakoblog | 2013-08-22 19:46

好きを仕事にするセルフブランディング&ブログ術を教えるかさこ塾主宰。撮影と執筆をこなすカメラマン&ライター。個人活動紹介冊子=セルフマガジン編集者。心に残るメッセージソングライター。


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