いや、帰省したって、やることないし、友達とかもみんなこっちに出てきてるし、
帰ったところで「結婚はまだか」「子供はまだか」「仕事は順調か」
と親からうんざりする小言を言われるから、帰りたくないという人も多いだろう。
どちらにせよ多くの人は正月に帰省するかしないかを、
自分の気持ちで決めることができる。
しかしそうできない人たちがいる。
福島原発事故で死の町と化した自治体だ。
故郷を失う。
帰りたい時に帰れない。
帰っても人が住める場所ではない。
環境省ご用達の大本営発表のNHKが、国営放送よろしく、
「帰還困難区域 除染で放射線量半分以下に」などと、
多くの国民から復興の名のもと増税して税金をめしあげ、
意味のない除染により、原発メーカーにキックバックするという、
天才的な除染利権を生み出しているわけだけど、
半分以下になったところで基準値の16倍以上もの高線量だ。
帰省したくても帰省できない。
ちょろっと家に立ち寄ることぐらいはできても、
のんびり何泊かして過ごすなんて不可能。
正月の間だけ特例措置で宿泊を認められたとしても、
それ以外の日程では自由に自分の意志で宿泊すらできない。
そもそも付近に営業している店がない。
ましてやこんなエリアに小さな子供を連れて帰省はできない。
だって死の町なんだから。

「かさこ監督さん、映画に出ている人はみんな、原発のこと話してますけど、
私だけ原発の話してないんです。私なんかが映画に出させてもらっていいんでしょうか?」
2013年12月末に映画「シロウオ~原発立地を断念させた町」に出演してくださった、
徳島県阿南市の椿町・椿泊町と伊座利の人たちに映画を披露した時のこと。
映画に出演していただいた民宿「あたらしや」の若女将は私にそんな風に尋ねた。

民宿「あたらしや」の位置する蒲生田岬は、原発予定地からすぐそばの集落。
もし原発ができていたら、多分電力会社の敷地となり、故郷はなくなっていただろう。
電力会社の敷地とならなかったとしても、
原発からわずか数キロの距離で、半農半漁の生活はできないだろう。
若女将自体は原発反対運動には関わっていない。
まだ子供だったからだ。
若女将自体も今は町の方に住んでいる。
宿泊客があると義母さんの様子を見がてら、
この場所に帰ってくる生活をしている。
子供は都会に出ている。
でもこの土地について映画でこんな風に話してくれた。
自分が生まれたところがすばらしいところであってほしい。
それは子供にも伝わっていると思います。
だから、一度は外に出てもね、帰ってくるところが自分はあるんだって思うと、
外でも大丈夫かな、生きていかれるかなって。
帰るところがあるというのはほんとに幸せなことだと思うので、
そこがこういう自然で汚れてないところであるのは、
子供にとっても財産だと思います。
この話を聞いてこの映画には欠かせない言葉だと思い、若女将に登場してもらった。
当初、若女将は映画に登場する予定はなかった。
たまたま映画撮影のために宿泊した民宿に過ぎなかったのだが、
私がこの若女将にも登場してほしいと思い、突然撮影させてもらうことにした。
原発を追い出した町の人だからこそ重みのある話。
確かにこの集落も年々過疎化・高齢化が進み、
小学校は休校になり、多くの若者は都会に働きに出ている。
でも、帰るところがある。
年に1回か2回、いや数年に1回ぐらいしか、帰省しないかもしれない。
でも帰りたいと思えば、そこに故郷は存在し、
人が住むことができ、誰もが自由に行き来できる。
帰らないにせよ、故郷が残っていることの心強さ。
普段は意識することはないにせよ、それは大きな心のよりどころではないか。
そういえば1/3の夜、NHKで、原発被災者が慣れない場所で暮らし、
体を悪くし、心もふさぎ込み、生きる力を失った祖父母を勇気づけようと、
孫がサプライズをするという番組をやっていた。
故郷を奪われる、住み慣れた場所を奪われることの、
精神的なダメージは計り知れない。
昨日ブログで環境を変えることをいい意味で捉えたが、
それは八方ふさがりでイヤな環境から、
自分の意志で出る場合だからこその話であり、
出たくもないのに、原発事故で強制的に追い出されることの環境の激変は、
死にも直結するほどのダメージを与える。
未だに放射能被害があるとかないとか、そんな水かけ論争をしているけど、
原発事故の恐るべきリスクは、放射能による実害があるかどうかだけの問題ではない。
それによって引き起こされる「風評」被害や関連死も含めて、様々なリスクをもたらすのだ。
「福島で風評被害と戦っている人たちもいる」とつぶやいていた人がいたけど、
原発ができれば風評かどうかはさておき、いろいろな「風評」被害が起きるのは想定内のこと。
それは原発立地を受け入れた人々はよく知っているはずだ。
そういえば「原発事故で死んだ人はいない」とバカまるだしの言葉を吐いたのは、
自民党の高市早苗政調会長だが、
原発事故で今も約14万人が避難生活を続ける福島県で、
震災関連死が1605人に達したという。
もちろん、原発だけでなく津波被災者もいるが、
宮城県878人、岩手県428人に比べ、福島県は突出している。
「ああ、帰省ラッシュで大変だったな」
「有楽町駅で火災事故なんか起きやがって、
新幹線動かなくなっちゃったじゃないか、ふざけんなよ」
なんて言ってられるのも、帰れる場所があり、故郷が「無事」だからだ。
「別にうちの故郷に原発はないから大丈夫」だなんて思っている人もいるかもしれないが、
自分の町や県になくても、事故が起きて風向きによっては、
他県であっても「死の町」になる可能性が十二分にある。
そのことが意外とわかっていないんじゃないかという思いもあり、
映画では徳島県と和歌山県の原発反対運動を取り上げた。
「徳島で原発計画をやめさせたのに、対岸の和歌山に作られたんじゃ意味がない!」
と映画の登場人物は語る。
県は違えど、原発事故のリスクは越境する。
海も空気も大地もみなつながっているのだから。
「かさこ監督さんも朝シャン派ですか?
うちの子は朝シャンどころか朝風呂派でね。
おばあちゃん家(民宿)に帰ってくると、脱衣所が寒い寒いっていうから、
脱衣所もお風呂場も改装しようかと思ってるんです」と、
先日、宿泊した時に若女将が話していたのが印象的だ。
子供はしょっちゅう帰ってくるわけではない。
民宿としても予約制で毎日宿泊客が来るわけではない。
でも故郷に帰ってくる子供たちのために、
日本の原風景が残る蒲生田の民宿に泊まってくれる旅人のために、
お風呂場を改装したいという若女将の心意気。
「故郷はいつ帰ってきてもあたたかいところであってほしい」
当たり前すぎてわからないかもしれないけれど、
帰るにせよ、帰らないにせよ、
帰れる場所があることの幸せを、あらためて知ってほしい。
そんな思いを込めて、若女将に映画に登場してもらった。
単に原発問題を考えるだけではなく、
原発をきっかけに人の生き方を考えるヒントとなる内容にしたつもりなので、
ぜひ映画に見にきていただけたらうれしく思います。
http://www.kasako.com/eiga1.html
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