
「歌のレッスンに通ったら腰痛が治ったんです!」
「ほとんど話をしなかったダウン症の子どもが、
レッスンに行った後には家の中で楽しそうにペラペラ話すんです!
こちらも驚くような報告をいただくのですよ」と杉本さんは話す。
ウソみたいな“魔法のレッスン”を行っているのは、
ソプラノ歌手でボイストレーナーの杉本明子さん(43歳)。
調布の深大寺で音楽教室を運営しているのだが、
杉本さんのレッスンを受けた生徒さんの中には、
病気が改善したり、心の悩みが解決した人もいるという。
なぜそんなことになるのか。
「声を出すことは体と心を使うこと。
歌を歌うためには正しい姿勢や正しい呼吸をしなければなりません。
歌の技術的なことの前に姿勢や呼吸について教えると、
心身の歪みが改善されるので、病気がよくなったり、心が軽くなったりするのではないでしょうか」
杉本さんはこれまで子どもから80代の高齢者まで、
音楽教室運営を通じて、様々な生徒さんを見てきて、あることに気づいた。
「ほとんどの人が自分の体のことをわかっていない。
体の正しい使い方を知らない。
思い込みや良くない癖をつけて体を使っているために、
声が出にくかったり、歌の途中で息が足りなくなってしまったりするんです。
自分の体の使い方をアドバイスしてあげれば、多くの人はちゃんと声が出るようになります。
私が教えているのは、一人一人が自分自身の体の正しい使い方。
体をきちんとコントロールできるようになれば、
全身の循環もよくなり、神経や脳への作用も改善し、
結果、心が軽くなったように感じのではないでしょうか」
例えば生徒さんに「深呼吸してみてください」というと、
多くの人は鼻を「スーーー」と鳴らしてみせる。
「それって深呼吸じゃなくて、ただ鼻、鳴らしてるだけですよね?」
正しい呼吸法や姿勢、つまり自分自身を声を鳴らす道具として使うことを教えることで、
ちゃんと声を出せるようになり、それで体も心もいい状態になっていくというわけだ。
生徒を見なくても、声を聴いただけで、
「肩、凝ってないですか?」とわかるという。
「声は体調をものすごく端的に表しています。
別に私のような音楽専門の人間でなくても、例えば電話で声を聴いて、
『今日、元気ないね』とか『何かいいことあったの?!』とか、
普通の人だってわかるじゃないですか。それと同じことです」
「生徒さんにはアマチュアの方も多いです。
音楽のプロを目指す人ばかりではありません。
歌のレッスンで少しだけカラオケがうまくなったとか、ただそれだけじゃなく、
歌のレッスンを通して、自分の心身の使い方を知ってほしい。
それができれば、自分自身をコントロールがうまくなり、
今までうまくいかなかったことが楽に行えるようにになったり、
自分の可能性に気づいてもらえるんじゃないかと思います。
『私は高音は出ない』『私の声は通らない』といっていた人が、
レッスンを受けて自身の使い方を学べば、多くの人がちゃんと声が出るようになります。
すると自信がつく。自分はまだまだできるんだと思えるようになるんです」
声を出すことってアスリートと同じなんだと思う。
だから運動学的なアプローチが必要。
単にどううまく歌うかといった以前の問題として、姿勢や呼吸を学ぶ。
それが脳や神経に影響を及ぼすことを体感する。
そこを理解せず、ただ声を張り上げてみても、歌はうまくはならない。

実際に私も2時間、歌のレッスンをしてもらったのだが、
私はどちらかというと声量がない方で、あまり高音も出ない方なのに、
レッスン始めの方とレッスン後半とでは明らかに声の出が違った。
杉本さんは音大を卒業してから、会社に勤めることもなく、
どこかに所属することもなく、ずっと個人で、
クラシック音楽の歌手として仕事をしてきた。
しかし歌うだけでは食べてはいけない。
そこで歌の仕事の合間に音楽教室を始めたのだが、口コミで評判になり、
多くの生徒さんを抱えることになり、音楽で生計を立てられるようになった。
「何より教えることが楽しいんです。
4歳の子どもだって一人一人まったく個性が違う。
この子はどんなことが好きなんだろうか。どんなことをすれば伸びるだろうか。
そんな風に教えていたらとっても楽しいんです」
音楽教室の傍ら、自身でリサイタルを行ったり、
オファーを受けて歌いに行く活動も並行してやっている。
楽しく音楽教室をしながら、自身の音楽活動もしている杉本さんだが、
人生を大きく変える転機が2つあった。
1つは、杉本さんが30歳の時、高校時代に歌の才能を見出してくれた、
音楽の師匠が亡くなってしまったこと。
中学時代は合唱部に入っていたが、
高校生になると歌より語学の勉強に興味を持ち、歌は忘れていた。
高校2年生の時に学校で声楽の課外授業があり、久しぶりに声を出すと、
「君、いい声しているから音楽の道を目指したらどうか?」と言われた。
それがきっかけで自分で探して出逢ったのが生涯の師となるその人だった。
その師匠と出会わなければ、音楽の道に進むことはなかった。
高校時代は師匠のもと、毎晩終バスまでレッスンに励み、音大に合格できた。
その後も杉本さんの音楽指導をずっとしてくれた師匠だったが、
杉本さんが29歳の時に脳梗塞になり、マヒ状態に。
身寄りのいない師匠の看病につきっきりだったが、約1年後に亡くなってしまった、
師匠が亡くなったことだけでもショックだったのだが、もう1つショックがあった。
身寄りがないと思っていた師匠には、実は韓国に家族がいることが判明したのだ。
師匠は韓国人だった。
「なぜ弟子でもあり娘のようにも可愛がってくれた私に韓国人であることや、
韓国に家族がいることを教えてくれなかったのだろうか。
別に国籍のことで接し方が変わったりすることなど決してなかったのに・・・。
そんなに信用されていなかったのだろうか・・・」
師匠が亡くなったことを契機に、しばらく一人になる時間が欲しくて、
教室は数人の先生に任せて、31歳から2年間、誰も知らないローマで暮らすことにした。
イタリア語の勉強に励み暮らしていた。
しかしローマに住んでいる時に、ふと通り沿いの音楽院から歌が聴こえてきて、
いてもたってもいられなくなった。
「歌が歌いたい!」
学校から出てきた生徒を捕まえて、
「どうやったらここでレッスンを受けられるの?」と聞いたら、
すぐ先生に連絡してくれて、レッスンを受けられるようになった。
ローマで再び歌をはじめて自分が元気になるのを感じた。
また日本に帰って歌をやろう。
そう思った。
日本帰国後に大きな転機となったのがミュージシャンのユンさんとの出会い。
音楽教室をしながら、コンサートなども行っていたが、
ある時、ポップスのユンさんと共演することになった。

その時、杉本さんは自作曲を懸命に演奏しているユンさんたちの音楽を聴いて衝撃を受けたという。
「今まで自分のやってきたクラシック音楽は、
歌詞もメロディも決まっていて、それをどう表現するかだったのに、
この人たちは何もないところから、歌詞やメロディを生み出して
個性を精一杯表現している、これこそ音楽そのものだ」と。
これまでクラシック音楽界だけにどっぷりつかっていた杉本さんにとって、
ポップな音楽の世界はまるで違う世界に見えた。
そこで演奏していたミュージシャンのユンさんとの出逢いをきっかけに
一緒にコンサートや音楽教室をしていくことになった。
これまでクラシック音楽界だけにどっぷりつかっていた杉本さんにとって、
ポップな音楽の世界はまるで違う世界に見えた。
そこで演奏していたミュージシャンのユンさんに声をかけ、
5年前から一緒にコンサートや音楽教室をしていくことになった。
ところがユンさんと組んでみたもののはじめはまったくうまくいかない。
クラシックとポップ、2人の声質やキャラクターがなかなかかみ合わず、
「お互い一人で演奏した方がいい」と何度となく言われた。
音楽教室の方も一人でやっている時はよかったが、
2人の教え方を活かしつつも、生徒さんたちに伝えていくことを統一していくことは大変だった。

はじめの1~2年は、お互いに試行錯誤しながらのチグハグさがあったが、
次第にお互いの足りないところを補い合い、
お互いのいいところを引き出すパートナーとなり、コンサートも音楽教室もうまく行くようになった。
コンサートはクラシックばかり歌うわけではない。
「多くの人がクラシック音楽に詳しい訳ではないし、
そんなにクラシックばかりを聴きたいう人も多くはない。
だからユンさんと一緒に選曲をし、自分たちらしくアレンジして、
時間を共有してくださるお客様たちが喜んでくれる音楽をする。
ポップでも時には演歌でも、ロックでも童謡でも民謡でも何でもやる。
来てくださったお客さんが喜んでくれなければ意味がないし、
自分たちも楽しくないじゃないですか」
「狭いクラシックの世界だけに閉じこもっていたくないし、
歌を通じてみんなを元気にしたい」という想いが強かったので、
歌うジャンルなど絞らずに、レパートリーを増やしていった。
結果、歌の活動も広がり、仕事につながっている。
「CDとか販売していないんですか?」と聞いてみると、
「CDも作品として作り続けていきます。でもCD販売はなかなか難しい時代です。
基本はライブでどれだけそこに来た人を喜ばせられるか。
多くのアーティストたちがここにエネルギーを注ぐ時代です。
そこで最高のパフォーマンスができ、喜んでいただければ、
またそこから口コミで広がって、別のイベントに呼んでもらったり、
自主企画でコンサートをしてもお客さんが来てくれて、仕事につながります。
どんなライブができるか。今の音楽家に問われているのはそこなんだと思います。」
音楽教室とミュージシャン活動の二足のわらじは、
相乗効果となり、互いにいい影響を与えているという。
「音楽教室に通いに来てくれている人が、
私たちの歌っているところを見に来てくれるようになるし、
逆にアーティストとしての活動が知られるようになっていくと、
そこから音楽教室もしているなら通ってみたいと思ってくれる人もいる。
そんな風にどちらの活動にもいい影響を与えている」
音楽教室は月謝制ではなく、
個人レッスン1回1時間2500円×4枚のチケット制(3カ月間有効)で、
生徒さんは歯医者さんに通うように、
毎回、次の都合のいい日時を決めて予約をするスタイルで運営している。
「生徒さんだって毎週何曜日の何時と決められてもなかなか都合がつきにくい。
私たちもコンサートが入ることもある。
だからお互いフレキシブルに予定が組めるよう、チケット制にしているんです」
そんな風なちょっとした教室運営の工夫で、
生徒にとって通いやすい教室になっている。
杉本さんが日々、歌を通して人に楽しんでもらおうとか、
自分の体の使い方を知ってもらい、自分の可能性を広げてほしいと思っている根底には、
命のはかなさを感じた体験をしていることが大きい。
杉本さんはもともと音楽家になろうと思っていたわけではなく、
どちらかというと体を動かすことが好きだった。
しかし小学校6年生の時に水泳の飛び込みの授業で、水深が浅く、床に頭を強打。
重いムチ打ちと誤診されたが、実は首の骨を骨折。
結果、3ヵ月の入院生活を送ることになるのだが、
誤診のまま放っておかれたら、あわや全身麻痺か命を落とすことさえ考えられたという。
「自分は生かされた。生かされた命を大切にして生きていきたい」
そんな体験があるからこそ、生きていることの喜びを感じて、
人にも楽しく生きてほしいと願って活動している。
もう1つは、水頭無脳症の子どもとの日々。
大脳のほとんど欠損しているため、医学的には何も感じることができないと言われていたが、
その子は、音にとても敏感に反応していることがわかった。
音の刺激を与えたり、声をかけたり手足を動かしてあげるうちに
笑いながら、自分の名前を呼ばれると声を出しながら手を上げるまでになった。
2歳10ヵ月で亡くなってしまったのだが、多くのひとに愛情を注がれ、
その子の生きる姿と笑顔を見る度に多くの人が勇気づけられたという。
それを見て杉本さんは思った。
「医師からは何もできないと言われたこの子どもが、
これだけのことができたのです。奇跡をたくさん残していってくれたのです。
五体満足な私たちはいくらでも可能性があり、いろんなことができるはず。
才能がないとか、年齢的に無理とか、自分に言い訳しないで、
ちゃんと自身の心身の使い方を学べば、
まだまだ自分にはいろんなことができることを、歌を通じて多くの人に知ってほしい」
きっと多くの人は与えられた肉体や能力を、
ちゃんと使いこなすことなく、もしかしたら興味を持つこともなく、
毎日を過ごしているのではないか。
ないものねだりではなく、自分に与えられた体をフルに使いこなすことができれば、
歌に限らずどんな世界でも、今よりはるかにできることがあるのではないか。
そんな生きる希望を与え、自身の可能性を感じさせ、
毎日の人生を楽しく過ごすきっかけを与えるレッスンをしている。
ちなみにレッスン体験を2時間してみたがあっという間!
家の近くにあったら毎日でも通いたい。
そんな楽しいレッスンだった。
(取材日:2014年9月11日、9月19日)
・杉本さんの熱血指導動画
https://www.youtube.com/watch?v=W4Fx8N6onao
・杉本さんの歌声
http://www.youtube.com/watch?v=ocOdmaIiQlo
・杉本さんの音楽教室「STAR'S MUSIC」
https://www.facebook.com/threehomesonestar
場所:東京都調布市深大寺東町5-9-3
tel042-455-1558
e-mail stars_music_onestar@yahoo.co.jp
・杉本さん&ユンさんのライブ予定
9/27〔土〕地元の諏訪神社秋季大祭で歌います
9/28〔日〕山梨山中湖 公立保育所主催コンサート
10/4〔土〕ユンさん、調布Bunsライブ
<お知らせ>
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20名限定。現在7名申込。
http://www.sanctuarybooks.jp/eventblog/index.php?e=739
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