大手企業を3年で辞め、独創的な絵画風写真で脚光を浴びる写真家・寅貝真知子さんインタビュー
2015年 03月 13日
大学卒業し、パナソニック(旧松下電器)で人事の仕事をしていながら、
社会人2年目で一眼レフカメラの素晴らしさに目覚めてしまい、会社を退職。
デジカメ全盛一億総カメラマン時代に写真で食べるのが難しい中、
独創的な絵画風写真=ローレフォトを生み出し、
テレビ、ラジオ、新聞など、これまでメディアに、
約80回も出演しているのが写真家の寅貝真知子さん(34歳)だ。
どこにでもいる普通のOLがどうやって写真家になったのか。
これまでの半生と写真に込める想いを聞いた。
(取材日:2015年3月13日)
■1:カメラを始めたのは社会人になってから
父親は写真館を営むカメラマンだったが、
写真に興味はほとんどなかった。
「写真でわざわざ記録に残すより、
自分の目で見て心に残す方がいい」とすら思っていた。
中学・高校では演劇部で活動した。
自分ではない何者かを演じることで、
人が何を考えているのかを知るのは楽しかった。
人の心理に興味を持ち、関西学院大学文学部心理学科に入学。
心理学を学び、人のモチベーションに興味を持ち、
人事の仕事をしたいと思い、就職活動をし、
2002年、松下電器(現パナソニック)に入社し、人事部に配属された。
ここまではどこにでもいる普通の人生だった。
しかし人生を変えたのは社会人2年目のこと。
父親が一眼レフカメラをくれた。
マニュアル操作しなければならないフィルムカメラだった。
今まで使い捨てカメラしか使ったことがなかったが、
自分でピントを合わせ、写真を撮るという行為が新鮮だった。
何より寅貝さんが驚いたのは世界の美しさ。
「これまで世界を見ているようで何も見ていないことに気づきました。
カメラを持つようになり、こんなにも美しいものが世の中にあるなんて。
今までより世界が10倍、美しく見えたんです」
すっかりカメラに夢中になった。
会社に勤めながら、日々、カメラを持ち歩き、写真を撮った。
次第に「カメラを仕事にしたい」と思うようになった。
会社に勤めていた時、こんなことがあった。
親切に道案内してくれた人がいた。
「自分はこの人にどんなお礼ができるのだろう?
組織で働いていても、個人でできることは何もないのではないか」
でも写真を撮り始めて、世界は変わった。
人を撮ったら喜ばれる。
バスで出会ったおばあちゃんと話をしていて、
写真を撮って送ってあげたらたいそう喜ばれた。
そうか。写真なら、自分ですぐ人に返せるお礼ができる。
人を喜ばせる実感を持てる仕事をしたい。
カメラマンになろうと会社を3年で辞めた。
周囲からは反対された。
「転職ならまだわかるけど、カメラマンで独立?」
「25歳からカメラマンになるなんて、もう遅いんじゃない?」
でも気持ちは揺らがなかった。
基礎を学ぼうと、1年間、写真の専門学校に行った。
2006年にカメラマンとして独立。
しかし仕事がない。
そこでホームページを立ち上げ、写真展示会を行った。
ネットとリアルの双方で自分を発信し、
社会との接点を持つことで、仕事が徐々に入り始めた。
しかし寅貝さんは悩んでいた。
「デジカメで誰もが簡単に写真が撮れる時代に、
ただ人物写真を撮るだけでお金をもらえる時代ではなくなるのではないか」
かつて写真がなかった頃、肖像画を描く画家に仕事はたくさんあったが、
カメラが登場し、肖像画を描く仕事はどんどん減っていた。
今まさにカメラマンがかつての肖像画家と同じ立場なのではないか。
デジカメで素人でもかなりきれいに写真を撮れる。
自分にしかできない写真はないだろうかと。
もう1つ、悩みがあった。
人物写真がメインだったが、笑わせるのは苦手だった。
「笑わせられないカメラマンでいいのだろうか?」
「そもそもカメラマンに笑わされた写真が果たしていい写真なのか?」
自分にしか撮れない写真を撮りたい。
もっとその人に寄り添った写真を撮りたい。
そこで写真撮影の前に「カウンセリング」をするようにした。
その人が今までどんな人生を歩んできたのか、
じっくり話を聞き、その上で写真を撮る。
話を聞いたら、誰もが必ずしも笑った写真がいいとは限らない。
その人の内面を映し出せるような写真にする第一歩だった。
そしてもう1つ、その人の内面を映し出す写真にするため、
寅貝さんが考えついたのが、絵画風写真=ローレフォトだ。
「写真だけではリアルな外形しか映し出せず、限界があります。
絵ならいろんな表現ができますが、
絵だと実像からかけ離れてしまうこともあります。
そこで思ったんです。
写真と絵画をミックスすればいいのではないかと」
カウンセリングをする。人物写真を撮影する。
さらにその人の内面を表現するため、
様々な写真を合成したり加工したりする。
その上で実際の絵画のように、写真の上から筆を加える。
こうしてできあがったのがローレフォトだ。
絵に見えるけど、写真がベースなのでリアル。
でも様々な加工をすることで、内面を表現することもできる。
いわば、写真と絵のいいとこどりのような作品だ。
手間はかかる。
でも単に写真を撮るだけなら誰でもできる時代に、
自分にしかできない写真技法を確立することができた。
「写真で表現してこそカメラマンだという人もいますが、
写真は表現する一つのツールに過ぎないと思っています。
大事なのはツールではなく、何を表現するかではないでしょうか」
何よりこの撮影をしていて楽しいのは、
お客さんの人生の節目に立ち会えること。
そして撮影過程や作品を通して、
お客さんの力になれることだ。
「これまでの半生を聞き、何度もやりとりをしながら、
撮影をしていく過程がお客さんにとって、
自分を見つめ直すきっかけになるんです。
またできあがった自分のローレフォトを見て、
『自分ってこんな雰囲気なのか』と、
客観的に自分を見つめ直すきっかけにもなり、
それによって自信を取り戻し、元気になってくれる人もいるんです」
寅貝さんのところに撮影に来るお客さんは、
何もかもがうまくいっていて、
幸せだからその瞬間を撮影してほしいという方だけではない。
むしろ生き方や働き方に悩んでいる中、
撮影を通して自分を見つめ直したいという人も多い。
「どん底の自分でもいいんです。
そんな自分を変に飾らなくても、自分の写真を見て、
がんばろうと前向きになってくれればうれしい」
独立して1年。
自分ならではの人物写真を確立した。
そんな写真を多くの人に知ってほしい。
でもお金はないので、広告費や宣伝費にお金はかけられない。
「いい作品を作るだけでなく、
知ってもらう努力もしないといけない」
そこであちこちのメディアにローレフォトについて、
プレスリリースを送ったところ、
大阪のローカル番組などで取り上げてくれた。
以後、メディアに出演すること約80回。
メディア出演によって問い合わせが増え、
写真家として活躍している。
寅貝さんは脱サラから写真家に転身した自分を振り返り、
こんな風に話す。
「大学卒業後の進路を考える時は、
会社の中からどこか自分にあったところを選ぶことしか、
頭にありませんでした。
でも考えてみれば、別に会社に就職することだけが、
人生の選択肢ではありません。
多くの人が人生の選択肢を自分で狭めてしまっています。
人生にはいろんな選択肢があり、自分で選ぶことができる。
撮影を通して自分を見つめ直し、自分に自信を取り戻すことで、
幅広い選択肢の中から自分の人生を選んでほしい」
「朝、起きるのがイヤだなという人生ではなく、
早く、朝が来て、いろんなことしたいなと思える、
ワクワクできる人生を」
今、みなさんは朝、起きるのがつらいと思ってしまうだろうか?
それとも朝が来たことを喜べるだろうか?
勝手に人生の選択肢を狭めてはいないか。
大企業に勤めながら会社を辞め、
社会人2年目になってから写真を始め、
デジタル全盛時代にもかかわらず、独創的な写真を生み出し、
自分も楽しいし、お客さんにも喜んでもらえる、
写真を撮り続けている寅貝さん。
人生はほんのちょっとしたきっかけで、10倍楽しくもなる。
見える世界は変わっていないのにだ。
そう、カメラを手にしたことで、
世界の見え方が変わったように。
ようは自分の心の捉え方次第。
・寅貝さんのホームページ
http://atorietorako.com/
・寅貝さんを紹介してくださった万華鏡フォトグラファー池田智さんのブログ
http://ameblo.jp/snowsilver168/
・生き方インタビュー一覧
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